遠くて身近なオレンジの人々 -阪井奈央-

インターンシップ

シェムリアップでのインターン生活もあとわずか。今回わたしがインターンシップでお世話になったのが、クロマーツアーズの広報部。フリーペーパーくろまるを発行している。初めての広報関連の業務では街を調査し多くの人と出会いインタビューをした。そして、最後に出された課題は「自己テーマを設定し、調査、プレゼンテーションをする」というものだった。

カンボジアに来て、わたしが見た景色の中にオレンジ色の布をまとった人たちがいた。歩いている、バイクの後ろに乗ってる、トゥクトゥクに揺られている・・・。これがまた目立つ。

彼らはいったい何者なのだろうか?ん?坊主頭・・・そうか!彼らはお坊さんだ!!

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そこでわたしが設定した自分のテーマは、「カンボジアのお坊さんについて」というものだ。

カンボジアの宗教事情は、ごくわずかな割合でイスラム、キリスト教徒である。そして人口の9割以上が仏教徒だ。また、仏教といっても日本と同じ大乗仏教ではなく、上座部仏教と呼ばれる宗派だ。この宗派の違いは、大乗仏教は信じる者は救われるという思想だが、上座部仏教は出家をして修業を積むことで悟りを開き、救われるという出家思想というもの。仏教には戒律というものがあり、カンボジアのお坊さんたちはとても厳しい掟に従わなければいけない。例えば五戒という戒律は

・不殺生:生きものを殺さない・不偸盗:盗みを働かない・不邪淫:みだらな行いをしない・不妄語:嘘をつかない・不飲酒:お酒を飲まない、の5つだ。

加えて、これ以外にも・朝は決まった時間に起床・ご飯は朝食と昼食の2回・午後から口にできるものは水やソフトドリンクのみ・お坊さんは女性に絶対に触れてはいけない などの戒律を守らなければならない。わたしの中でカンボジアのお坊さんとはとても遠い存在と捉えてしまったこともお分かりいただけるだろう。

わたしは、お坊さんの存在を身近に感じることはできるのだろうか。遠い存在だったものが実は身近な存在に感じられたとき、とても面白いのではないかとわたしは考えた。そして今回の調査のコンセプトは「お坊さんを身近に感じてもらおう!」というものにした。

わたしはまず、(タイの国境付近である)プレアヴィヒアでお坊さんをしていた、モエウさんという方にインタビューをさせてもらった。

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彼は19才の時にお坊さんになったそうだ。次に教えてくれたことはお坊さんの1日の流れだ。

起床:朝の4時もしくは4時半

瞑想:1時間程度、お経を詠むこともある。

托鉢:パゴダ(お寺)から出て食べ物、寄付金をもらう

朝食:托鉢でもらった食べ物と寺で作られたご飯を食べる

自由時間:8時ころ~11時まで

学校へ行って勉強、お寺で活動 など

昼食:朝食と同様

休憩時間:1時間の休憩。寝ることが多い。

自由時間:14時~17時まで

     勉強、ボランティア活動、学校へ教えに行く、自主活動 など

瞑想、お経:1時間程度

自由時間:18~21時まで

     勉強、修業 など

就寝:寝る時間は自由。

彼らは毎日このルーティンで生活している。日本で怠惰を極めたかのような生活をしているわたしとは月とすっぽんの生活リズムだ。しかしこの生活はとても大変だとモエウさんは言っていた。起床の早さもそうだが、お経を詠むという時間がある。そのお経も日本のように本を片手に詠むのではなく、約300ページもある本をすべて暗記しなくてはいけない。

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サンスクリット語という言葉で書いてある呪文のようだ

モエウさんはこの1冊を半年かけて覚えたそうだ。1年かけて覚えた人もいた。頭がいい人は3カ月だとか。(これはただの天才である。)

瞑想には4種類ある。私たちも知っている座禅と立禅、そして歩行禅、寝禅というものだ。

托鉢は部活動で使う氷嚢の大きいバージョンの袋の中に包まれた食べ物を入れてもらう。食べ物が溜まるととても重いらしく、首がちぎれるかと思うほど痛くなってくるらしい。

わたしは日ごろとても気になっていたことがあったので質問させてもらった。

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Q. 袈裟って暑くないのですか?

A. 暑くも寒くもなくちょうどいいよ。(近くで見てみると通気性がよさそうだった。)

Q. お坊さんが戒律を破っていることはありますか?

A. みんな内緒で破っているよ。お腹がすいたときとかね!()

Q. もし戒律を破ったことがバレたとき、どうなるのですか?

A. 何時間もお説教されるんだ。(ちなみにモエウさんも破ったことがあるらしい。)

Q. 日本には座禅を組んでいるとき、集中していない者の肩に木製のはたきを使ってパァーン!と叩かれるシーンが有名です。カンボジアにもありますか?

A. そんなことはないよ。あるとしたらずっと喋っているんだ。瞑想の極意みたいなことをね。(あったら見てみたかったので残念だった)

Q. お坊さんの友達とケンカをすることはありますか?

A. あるよ。取っ組み合いにはならないけれどね。別室に二人きりにさせて、解決するまで話し合うんだ。(ちなみに些細なことではケンカは起こらないらしい。瞑想の賜物だ。)

モエウさんのインタビューが終わったわたしは、ワットプレアプロムラットというお寺に行ってさらにインタビューを行った。

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している。驚いたことは、彼は日中の自由時間で子供たちに仏教を教えるために学校へ出向かう以外はお寺の外に出ていないのだ!また、彼は、托鉢は地方で盛んだが街の方ではあまり行われない、と教えてくれた。

残念ながらここでは彼以外のお坊さんと会って話す機会はなかった。さらにわたしはワット・ケサララアムにてインタビューを行った。

最初に見つけたのはお寺の中に作られた語学学校だ。そこでは時間割別に日本語と英語を学ぶことができる。ここの語学学校はお坊さん以外の人たちも通うことができるようで、トゥクトゥクの運転手の人たちが勉強していたりもする。ちなみにここで日本語を教えている先生はいつか日本に行くことが夢だそうな。

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このときは英語の勉強中

次に目に入ってきたことはこれ。

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えっさえっさ

「なにをしているんですか?」と、わたしは尋ねた。「今寺の掃除をしている最中なんだ。」と教えてくれた。ゴミを集めて、土を耕して、古くなった木や植物を植え替えていたようだ。そこではたくさんのお坊さんが作業をしたり、スナックを食べていたり、犬と戯れているお坊さんもいたりした。また頭にはちまきを巻いたワイルドなお坊さんもいたりしてとても新鮮だった。わたしもぶどうとお水を美味しくつまませてもらいながら、アンケートをとらせてもらった。

Q. お寺の食事はおいしいですか?

A. もちろん!おいしいよ!の回答がほとんど。ごくたまに、う~ん、微妙だな~(味付けが甘すぎるらしい)という人もいた。

Q. お寺で出る食事の中で何が好きですか?

A. 鶏肉料理、魚料理、チーズ(プラホックというカンボジアの料理の一つでよくチーズとカンボジアでは呼ばれている、らしい。)

Q. 12時以降何も食べられないけど、お腹はすかないんですか?

A. 毎日ハングリーだよ.

Q. 午後によく何を飲んでお腹を満たしているんですか?

A. コカ・コーラ、ミルクコーヒー。Red bull など

Q. 休日は何をすることが好きですか?

A. 遺跡を見に行くこと、空港に行く(飛行機マニアがいたようだ)

Q. 他のお坊さんとどんな話をしているんですか?

  1. A. 自分のポリシーや社会、政治について、学校や授業のこと、音楽やテレビのこと。

いろいろと話していると「お昼一緒に食べる?」と提案してくれた。

そしてお昼。鐘の音がゴィーーーーンゴィーーーーンとなることを合図にお坊さんたちが続々と食堂へ集まってきた。

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お坊さんたちは食事の前にお経を唱えてから食事を開始する。それから一斉に食べ始めるとものすごい勢いでテーブルの上にある食べ物が無くなっていく。これから何も食べられないと考えるとこの時間でいかにお腹に溜めることができるかが勝負なのだろう。食事は寺でお手伝いをしているおじいさんと子ども達が運ぶというシステムのようだ。そして12時きっかりにお坊さんたちは一斉に部屋に戻っていった。そのあとわたしはお手伝いの彼らと一緒にお昼を食べさせてもらった。

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その日のメニューは

・かぼちゃの煮つけ・きゅうりとお肉のスープ・結構な甘口のカレー・野菜の煮込み・パン・お米だった。日本の滋養強壮のような薄い味付けかと思っていたわたしは一般家庭と変わらない味付けに驚いた。正直美味しかった。個人的にはスープが一番好きだった。

17時。わたしはもう一度、ワット・ケサララアムを訪れた。すると、どこからかお経を唱える声が聞こえてきた。わたしはその声のする食堂をのぞいてみた。

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そこには白い服を身に纏ったおばあさんと2人の小学生くらいの女の子、そしてお坊さんたちがお経を唱えていたのだった。「私も参加したい。でも今日の私の恰好は白じゃない。ぐむぅ、入りづらい。」と心の中で葛藤していると、長年の修業を積みわたしの心を読むまでに熟達した1人のお坊さんが「入っていいよ。」と言ってくれたのでわたしは喜んで参加させてもらったのである。しかし、おそらくサンスクリット語で詠まれているお経を私が理解できるはずもなく。「南無阿弥陀仏を聞いているときの外国人はこういう心境か。」と思いながら口パクでお経を詠んでいると、お手伝いの少年たちがジュースを配りだした。そして優しいことに口パクなので全くのどが渇いていないわたしにまで渡してくれたのである。ありがたく飲ませてもらった。味は最初が甘く後味がたくあんだ。文章にすると美味しくなさそうに感じるが、案外これが美味しい。ぜひ今度サンスクリット語のお経をきちんと詠みながら飲んでほしい。

18時にお経が終わり、わたしはなんとお坊さんと一緒に大学へ連れて行ってもらうことになった。初めは教室の外から授業風景を見ていたのだが、わたしの存在に気付いた先生が「そんなところで見てないで一緒に授業参加していけばいいよ。」とおっしゃってくれたので、わたしはまたまた喜んで参加させてもらった。

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どう頑張って撮っても、カメラ目線なお坊さん。

今回お邪魔させてもらったクラスは、英語で経済学を学んでいるところだった。クラスの雰囲気はとても明るくみんな楽しそうに授業を受けていた。お坊さんも他の生徒と何ら違うところがあるわけでもなく、教室にいる生徒のうちの一人という感じであった。むしろ突然現れた日本人(わたし)の方が普通ではなかったのは確かである。

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気さくな人たちでした。

さて、みなさん。わたしの今回のコンセプトは「お坊さんという存在を身近に感じてほしい」というものであった。感じていただけただろうか?わたしは出会ったお坊さんたちに何が一番楽しいか?という質問を必ずしていた。みんな一番楽しいことは「仲間のお坊さんたちと話をすることだ。」と答えた。厳しい修行や戒律を守りながら生きている彼らにとって、いろいろな話をするときが心休まるときなのだろう。そして、彼らは私たちとは違うルールの中で生きているけれど、でも、中をのぞいてみるとお腹もすくし、学校に通って勉強するし、楽しそうに生活している姿を目にすることができてとてもよかったと思った。

ぜひ、みなさんも今度お寺へ突撃訪問してお坊さんたちと話してみてほしい。わたしとは違ったお坊さんの姿や日常に出会えるはずだ。

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お寺に入って2カ月目の少年たち

みなさんありがとうございました!!!

阪井奈央

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