カンボジア第3の世界遺産誕生
2017年7月8日、カンボジアに3つ目の世界文化遺産が誕生した。カンボジア中部のコンポントム州にあるサンボー・プレイ・クック遺跡群である。 これまでカンボジアには、世界的観光地として人気の高いアンコール遺跡群、タイとの国境に位置するプレアヴィヘア寺院の2つの世界遺産がある。第3の世界遺産となったサンボー・プレイ・クック遺跡群とはいったいどんな場所なのか。
幻の王都
サンボー・プレイ・クック遺跡群は、コンポントムの街から幹線道路を外れて北東へ約20km。水田とヤシの木と村々が並ぶ美しい風景の中を車で30分ほど走った森の中にある。今回世界遺産に登録されたのは王が祈りの場として神々に捧げた寺院群だ。彫像が多く発見されたプラサート・サンボー。煉瓦造の寺院の壁面に精緻な彫刻が残るプラサート・イェイ・ポアン。ライオン像でカンボジアの人々に親しまれるプラサート・タオ。これら3つの寺院区を中心に293もの寺院の痕跡が確認されている。それらの寺院の建立年代はアンコールワットを始めとするアンコール遺跡群よりもさらに古く、6世紀末から9世紀初頭にまで遡る。さらに現在の穏やかさからは想像しにくいが、この寺院区の隣には真臘王朝の首都と考えられている古代都市イシャナプラの痕跡がある。中国の隋の歴史書には「2万軒の家がある」と記録されており、かつてこの地が大都市として賑わっていたことが想像される。
*1シェムリアップから2時間半、道中の美しい農村風景にも十分に価値がある。
*2プラサートサンボーの女神ドゥルガー(レプリカ)
*3木立の中の遺跡たち
豊かな森と遺跡たち
静かな森の中にひっそりと顔を覗かせる、煉瓦の寺院たち。石造の巨大寺院が並ぶアンコール地域のような迫力はないものの、煉瓦の壁面や台座に彫り込まれた装飾は緻密で個性的。そしてこの遺跡群にしか見られない八角形の寺院や宮殿のような形をしたフライングパレスという装飾にアンコールとも異なる独自の表現が宿る。1000年以上の時を経た彫刻や整然と積み上げられた煉瓦の壁からは古代の人々の息づかいが聞こえてくるようだ。
*4「飛ぶ宮殿・フライングパレス」@プラサートサンボー
*5発掘された台座に彫刻された怪物。どこかかわいらしさが残る
古代と現代を行き来する面白さ
静かな森を古代に想いを馳せながら歩いていると、遺跡で遊ぶ子供たちの笑い声や牛たちのベルの音が聞こえてくる。古代の世界のすぐ隣に、現在の人々の暮らしがあるのもサンボー・プレイ・クックの魅力の一つだ。できるだけ長くこの地域に滞在して、地域の食や工芸に触れ、自転車や牛車に乗って、地域の目線でそこにある暮らしのリズムに溶け込んでみるのも面白い。 同時に世界遺産としてのサンボー地域の難しさもここにある。これから訪れる人々の数が増えていく中で、この古代と現代が背中合わせの魅力をどう守り、どう発展させていくのかが大きな課題となるだろう。まずは遺跡を起点に、かつてここにあった古代の世界と今ここにある地域の暮らしの魅力をゆったり楽しみたい。
*6遺跡近くのコミュニティマーケットではおばちゃんたちの手仕事にも触れられる
【文責】 吉川 舞(ナプラワークス代表)
2008年にサンボーに魅せられカンボジアに移住。2015年よりサンボー地域の人々と訪れる人を繋ぐ地域専門旅行会社ナプラワークスを運営。 Napura-works (ナプラワークス) 地域と遺跡と訪れる人が元気になる旅をサンボー・プレイ・クック地域の人々と提案。ホームステイや村散策など地域にお邪魔させてもらう旅をしたい方はご連絡ください。 |
【サンボープレイクック】 7世紀初頭、イシャナバルマン1世により建造された大型寺院。見所は巨木が絡みつく祠堂、空中宮殿と呼ばれる彫刻などである。入場券$3。 |
たとえばこんな旅【サンボープレイクック】
8:00 出発 → 9:00 アンコール王朝時代の大橋、コンポンクディ橋(約15分)→ カンボジア第三の世界遺産「サンボープレイクック」と昼食(約3時間)→ 17:00 シェムリアップ到着