アンコール・トムは12世紀後半アンコール王朝最盛期に作られたと言われる。アンコール遺跡群のひとつで1辺3kmの堀と高さ8メートルの城壁に囲まれた城砦都市遺跡である。
その敷地は非常に広大で1日では回り切れないほど多くの遺跡があるが、最もメインと言われる遺跡はバイヨン寺院と5つの大門であろう。
【バイヨン寺院】
アンコール・トムの中心に位置し、アンコール・トム内で最も有名な遺跡。
バイヨン寺院を最も有名たらしめているのが、敷地内に立つ50近くの塔の四面に刻まれた人面像である。
その人面像は観音菩薩を表していると見る説が一般的だが、アンコール・トム建設の王ジャヤヴァルマン7世やヒンドゥー教の神であるブラフマー神を模しているという説もある。
この四面像が穏やかにほほ笑む様は「クメールの微笑み」とも呼ばれる。
その構造は二つの回廊に囲まれたピラミッド型となっている。
*第一回廊
その壁面にはアンコール・ワット同様さまざまな彫刻が細やかに刻まれている。アンコール・ワットが神話や王の威厳を描いているのに対し、バイヨン寺院の壁画には当時の庶民の生活や隣国チャンパ軍との激戦の様子が瑞々しく描かれている。
そのため、非常にユーモラスな場面が多く見られ、現在のカンボジア人の大らかさの根源をうかがい知ることができる。
*第二回廊
第一回廊の壁面とは違い、「乳海撹拌」や「ライ王の伝説」など宗教色の強いレリーフが刻まれている。
【5つの大門】
前述のとおり、アンコール・トムは城壁に囲まれた城砦都市であり、その内部に入るために巨大な四面像が彫られた5つの大門が設けられている。門前にはそれぞれ堀に架かる橋があり、欄干は蛇神ナーガの胴体を抱えて並ぶ神々と阿修羅たちが並ぶ「乳海撹拌」の様子として描かれている。
5つの門のうち最も修復状態が良く、アンコールワットから近いこともあり、南大門がもっとも人気のスポットとなっている。
東側には門が二つ並び、かつて戦いに勝った軍隊が凱旋するために用いられたのが「勝利の門」、逆に敗戦した軍隊が用いられたのが「死者の門」であると言われている。
北門は遺跡群大回りコースと続き、西門は地元民の生活用として現在は使われている。