地味なことを続ける。それが一番のインパクト。

インターンシップ

「カンボジアで働かせてもらっている、タプール通りにお世話になっている。だからきれいにさせてもらいます、いつもありがとう。」

 

シェムリアップに来てちょうど2週間目。わたしはここカンボジアに来てずっと気になっていたことがあった。それはゴミだ。自転車をチリチリ漕いでいてもゴミ。トゥクトゥクに揺られてもゴミ。ふと見ればごみゴミ塵….

 

ハエブンッブンいってるし…
木の根元にゴミ袋密集してるし…
川の土手って草生えてるんじゃなかったっけ…あれ…

 

そんな風に考えながら生活していたときに今回の取材の話が舞い込んだ。
「高橋宏和さんって人がいるんだけど、その人が朝何をやっているのか知ってる?」

 

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高橋宏和さん。みんなからはヒロさんと呼ばれるとても陽気な方だ。

 

PICK UP THE FUTURE
FOR 100 YERS LATER IN CAMBODIA

 

ヒロさんの活動、それは毎朝欠かさず続けるゴミ拾いだ。
高橋宏和さんはFresh Fruits FactoryとThe Angkor Sky Barを経営しているカンボジア在住の日本人で、タプール通りにお店を構えている。

今回わたしは、ヒロさんにこの活動に対してのインタビューと実際のゴミ拾いの活動に参加させてもらった。

 

朝の8時半、軍手を装着しゴミ袋とトングを両手に、わたしはゴミ拾いを始めた。
落ちている、落ちている、落ちている….
ペットボトル、半分以上コーヒーの入ったプラコップ、たばこの吸い殻、紙ごみなどなど…
わたしは汗だくになりながら、ごみを拾いつつヒロさんを見ていた。
ヒロさんはホウキとチリトリを両手にサッサッとゴミを片付けながら、朝ご飯を食べているカンボジアの人たちやトゥクトゥクのおじちゃんたちに

「スオスダイ!(やあ!)ソクサバーイ!(元気かい!)」

と笑顔であいさつをしていた。

 

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ヒロさんはわたしに、
「こうやって笑いながらゴミ拾いをすることで、現地の人たちに掃除は楽しいぞ!きれいになることはいいもんだ!ということを伝えたい」のだと教えてくれた。

ヒロさんのこの活動は2016年4月19日からおよそ5か月毎日続けられている。タプール通りに住んでいる人たちのほとんどがヒロさんを知っているし、理解を示してくれる人たちも増えているとのこと。

「地味なことを続ける。それが一番のインパクト。」とヒロさんは言う。

最初は誰の目にも止まらないかもしれない。それでも毎日コツコツと積み重ねていくことで、次第にみんなはゴミが落ちていることに対して意識を向け始める。これがインパクト。そこからコミュニケーションの中でも思いを伝え、少しずつ変えていく。ヒロさんの思いはこうして少しずつ広がっているのだ。

 

ヒロさんがここ、カンボジアに来たのは去年の11月8日だということにわたしはとても驚いた。もう何年もカンボジアに住んでいる、そんなオーラを感じさせるくらいカンボジアに馴染んでいたからだ。そしてヒロさんも来てすぐにゴミの多さに驚き、カンボジアでのビジネスの準備が整ったと同時に毎朝のゴミ拾い活動を始めたのだ。始めた最初はそれまで手付かずだったゴミを片付けるのに1時間以上かかったという。また、ゴミ箱の中は袋に入っていないゴミが15~20センチの層になっていたらしく、それはもう形容し難い臭いだったそうだ。

ヒロさんのこの活動を見ていたカンボジアの人たちは、彼に「ヒロ、ソムトー(ごめんね)」と言うそうだ。しかし、これは彼らが悪いのではないとヒロさんは言う。

 

では、一体なにが原因なのか。

 

それはカンボジアに来れば必ず耳にする、ポルポトの内戦が原因だ。ポルポト政権下でのカンボジアは、知識人・教育者・専門分野に特化した人たちを排除し、自分たちの言うことを聞く者だけで国を構成し支配しようとした歴史が40年ほど前にある。そして内戦が終了し、一気に近代文明がカンボジアに舞い込んだ。それまではバナナやハスの葉をお皿やたばこの代わりにしていて、それらは捨てても土に還っていた。しかし紙の皿やプラスチックでできたものが使われるようになっても、教育の場が失われ、教育システムも何も整っていない状態。そうすると何が起こるかお分かりいただけるだろうか?そう、彼らはバナナやハスの葉と同じ感覚で紙やプラスチックを捨てていたのだ。なぜなら捨てたゴミがどうなるかを教える場も人も当時のカンボジアにはなかったからだ。

また、大きな通りだとゴミの回収が毎日行われるのに対し、一本隣の小さな通りになると10日もしくは月に1回しか来ない通りがある、ゴミの分別もない、ゴミを捨てるのにお金がかかるなどの原因もある。

 

「ルールやモラルがなければ、理性や秩序も生まれない。」

「きれいにするという環境づくりが整っていない。」

 

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ヒロさんはカンボジアのゴミ問題の根幹はこれらだという。そしてこれらを解決するためには、カンボジアの人たちの心を変えることが一番重要だと考えている。

 

だがヒロさんは決して強制はしない、というスタンスをとっている。

「これじゃあだめだよ!こうやって捨てなきゃだめなんだよ!」

こんな風にみんなを説得してゴミ拾いをさせるのでは根本的な解決にならない。カンボジア人が自発的に行い始めないと結局元通りになってしまうし、人から人へ思いが伝わることはないからだ。また、年や月1回のゴミ拾いのボランティアがあるが、結局みんなの印象に残らず、次の活動まで誰も手を加えないわけだから、解決には至らない。だからヒロさんは、毎日続けることが大切だという。毎日続け、コミュニケーションをとることでヒロさんの思いを毎日少しずつ少しずつ伝えているのだ。

わたしがゴミ拾いの活動に参加したとき、1人のカンボジア人の男性がいた。彼は用事で来ることができない日以外は毎日この活動に参加しているのだそうだ。また、通りに面しているホテルのガードマンの男性もヒロさんの活動を見て、自分のできる範囲のゴミは集めているという。これがヒロさんの言う「思いが伝わっている一歩」なのだ。また、たまたま通りかかったときにこの活動を知った旅行者や、欧米人、カンボジア在住の日本人などいろんな人たちは、ヒロさんの思いが伝わったから参加しているのだ。

 

ヒロさんが始める以前から、掃除の活動をしている人もいる。今後ヒロさんはその人たちと繋がって活動を広げていきたいそうだ。そして、ヒロさんは「カンボジア人でこの活動のリーダーになってくれる人を見つけて育てたい」とわたしに話してくれた。外国人がリーダーとなってやっているようではまだ駄目なのだ。そのためには思いを絶えず伝えていかなければならない。

 

PICK UP THE FUTURE

FOR 100 YERS LATER IN CAMBODIA

未来を広げよう。100年後のカンボジアのために。

何年も続けることでムーブメントが起きて、それが100年後にきれいな国・カンボジアと言われるように。

ヒロさんの掲げるこの活動のコンセプトだ。

 

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ヒロさんからこれからシェムリアップに訪れるみなさんへ伝えたいことは

「シェムリアップは世界遺産のアンコールワットの他にもアンコールトム、ベンメリア、タプロームと多くの遺跡を見ることができる観光地である一方、孤児院や市街地から離れた地域ではリアルなカンボジアを感じることができる街だ。両方の側面を見て、肌で感じとって日本に帰ってこれからに生かしてほしい。もし、その中であなたたちがカンボジアに来て力を貸してくれるとありがたい。そして、自分がどれだけ恵まれた環境で過ごしているのかを再確認してほしい。」ということだ。

 

最後に。

わたしが活動に参加し、ごみを拾っているとき、トゥクトゥクのおじちゃんやホテルの従業員、工事現場のおにーちゃんたちが自分の周りにあったタバコの吸い殻や紙くずを拾ってわたしに渡してくれた。そして「私たちの国をきれいにしてくれてオークン(ありがとう)」と言ってくれた。わたしはそれがとても印象的だった。

わたしはこれを聞いて「今まさに結果が出ている途中なのだ」とそう感じた。
ヒロさんの考えはとても柔軟だ。自分のプロジェクトの将来も地道に長い目で捉えているし、冒頭文のように感謝と謙遜を常に持って生活をしている。
カンボジアに来て一番わたしの印象に残った人だった。

ヒロさんとの出会いはとても素敵なものだった。ありがとうございました。
あと、ヒロさんのお店の食べ物はとてもおいしかった。おすすめはフルーツパスタかな。

 

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おつかれさまでした!

 

阪井奈央
(photography by  HARUKA ABE)

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